横八会員投稿 No.333

題目  季節の栞、山
寄稿  伊藤 博 (7組)
掲載  2009.04.30

井上 靖の「氷壁」がベストセラーになった頃、新宿駅のコンコースは中央本線の
夜行列車を待つ山男達の列で溢れていた。

夏なら小淵沢を過ぎると夜が白々と明けはじめ、遠くに壮麗な山の稜線が姿を現す。
その感動は山男ならずとも、多く旅人の心に残る光景である。

冬の山は生命を一切寄せ付けぬまでに冷厳であるが、白銀の世界は神々しいほど美しく
人を魅了する。
春の足音と共にゆっくりと根雪が消えてゆくと、里では山の雪形を観て
その年の豊作を占う。

夏の山は荒々しい巨大な岩塊と化し、太古のマグマと地殻変動のままの姿を露出し
立ちはだかる。

やがて、山麓を紅葉が錦に染めるのも目もやらず、足早に冠雪の秋を迎えまた長い冬の
睡りにつく。

悠久の昔よりこの大自然の輪廻回生を繰り返している山を前にすると、人間の小ささを
思い知らされて、アミニズムや修験道の原点を見る思いがする。

           芋の露 連山影を正しうす    飯田蛇笏

雪や山岳にひときは強く惹かれるのは、温暖の地に海の自然児で育った故であろうか。
この小稿を、初めて信州の山に誘ってくれた今は亡き中学の友人I君に捧げる。

            
   
           春の南アルプス                         夏の北アルプス

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