横八会員投稿 No.249


題名 宇宙発電衛星の実現に向けて
投稿 伊藤 博 (7組)
掲載 2008.04.19

産業・科学政策点描

 
                             究極の大型クリーンエネルギー
 
太陽発電衛星研究会(宇宙研[JAXA]、東大、京大、慶大を始め諸大学、関連企業が参画している研究グループ)の本年4月発行の会報から、究極の大型クリーンエネルギー確保のゲートウエイをご紹介します。過去のサミットにて海部首相が、我が国から世界に宣言したテーマでもあります。

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PSP寄稿

      宇宙発電衛星の実現に向けて

                   帝京平成大学

                       伊藤 博

1.ポスト京都議定書への努力

 

南太平洋のど真ん中にあるバヌスアツは地球温暖化の最前線である。1990年代後半から満潮時に海水が浜を超えてどっと押し寄せるようになり高波の被害が増した。家々が浮かび流れ、煙害により作物は育たず、井戸水は塩水に汚染され、マラリヤが多発。ついに、2005年に、全住民約100人が300ほど内陸部に集団移住を決めた。政府に財政的な余裕がないので、国連の援助で世界初の環境難民対策として実施された。

バツアヌスは約80の島から成り、人口22人。2006年に環境保護団体から、暮らしの満足度と平均寿命、二酸化炭素の排出量等から算出した「環境資源を効率よく利用し、国民が長く幸せに暮らす国家」1位に選ばれている。夢の島が腐り始めたと、産経新聞(2007年124日)は報じている。

 本年12月にインドネシアバリ島で開催される国連気候変動枠組み条約の第13回締約会議(COP13)には、約190カ国が参加、「ポスト京都議定書」となる2013年以降の地球温暖化防止の新たな国際的な骨組みを検討して、「バリ・ロードマップ」の合意を目指す。京都議定書を離脱した米国や、高成長により温室効果ガスの排出が増加している中国やインド、先進国の削減数値目標を掲げる欧州連合(EC)との調整が鍵となろう。

 

太陽宇宙発電の具体化の意義は、温暖化効果を促進すると目される炭酸ガスの削減効果と枯渇する石化燃料の有効活用、並びに原子力発電の限界(ウラン資源の枯渇と高レベル放射性廃棄物の処理)から論じられていることは言うまでもないが、地球の長い歴史からみると炭酸ガスの増加は新たな現象ではなく、これまでも存在していたとの見解がある。

この主張も踏まえた上で今後の進め方を考える必要があるので、次ぎに、先ずその要点に触れてみたい。

 

2.地球は悲鳴をあげているか

 気象地理学を専門とする政策大学院の岡本薫教授の説に依れば、地球温暖化に関する世に流布している常識的認識に下記の3点で疑問を呈している。

 その第1は、「現在の地球の気温は嘗て無い早いペースで上昇している」とする点である。

このペースは、過去1万年だけを見ても、10回程度起こっていて珍しいことではない。

有史以前からの二酸化炭素濃度の急減・急増をよく見れば、二酸化炭素の排出、削減について人間の微々たる影響を特別視すること自体が驕りの発想、としている。

 その第2は、「地球の温度は嘗て無いほど高温化している」とする点である。

 人類誕生後だけを見ても、地球の気温は激しい変動を続けていて、約30万年前、20数万年前、10万年前の海面は、現在よりもそれぞれ45メートル、30メートル、20メートルも高かった。北海道に珊瑚礁があった時代もあり、北極の氷も何度も消滅している。約5000前の縄文時代は現在より遙かに高温で、海面は数メートルも高かった。

 いわゆる最悪のシナリオに見る2100年の気温は縄文時代と同程度、としている。

 その第3は、「地球が悲鳴を上げている」とする点である。

 地球全体の気温変化は、「雨が降りやすい帯状の地域」を南北に移動させるので、その境目付近では大洪水や大干魃を起こす。5000年前(日本の縄文時代)は、現在より遙かに高温であったが、エジプト、サワラ砂漠等は雨が多く降る地域であった。だから文明が発祥した。その後の気温低下で、「多雨地区」が移動して、これらの地域が砂漠化して、ヨーロッパが住みやすい場所になった。

 「悲鳴を上げている」のは「地球」ではない。地球の歴史からみれば、瞬間的な「過去

200年程度の気象条件」で、「今、偶々得をしている人々」なのである(産経新聞、2007年11月14日、「解答乱麻」)と述べている。

 

 仮に、以上の説を認めて、温室効果の原因は炭酸ガスの増加とする仮説を誤りとして除外し、従来通りに化石燃料への依存を是としたとしても、その枯渇は目前である。それ以外に期待されている原子力発電は、排出される高レベル廃棄物処理場の行き詰まり、並びに、ウランの枯渇問題はぬぐい切れず、将来のクリーンエネルギーの本命とはなりえない。

 従って、無公害な有り余る太陽エネルギーを地上の天候に左右されずに活用する宇宙発電衛星のみが、将来の大型クリ−ンエネルギーの究極の本命と目されるに価するといえる。

 

3.原子力発電の問題点    推進を阻む根強い不信感

国内電力の約3割を担う原子力発電から発生する高レベル放射性廃棄物の処分は、処分場誘致に拒否反応が強くメドが立たないのでアキレス腱になっている。

青森県は、高レベル廃棄物を県内で処分しないことを条件に、使用済み核燃料の再処理工場など核燃料リサイクル関連施設を受けいれた。これらの施設が運転出来なければ、原発に支障をきたすことになる。

国の計画では、2035頃に最終処分を始めることになっているが、処分地選定から完成までに約30年を見込むと、この1〜2年の間に誘致に応募する自治体が現れなければ、原子力計画を大幅に変更せざるを得なくなる。

 本年3月の原発データの改竄問題や、7月新潟県中沖地震で原子力への不信感は益々募り、核のゴミへの抵抗感という根本的な原因を解消する道筋は依然として見えて来ない。

 このような致命的な問題を有する原子力を、将来のエネルギー源の主力に据える訳には行かない。また、核融発電は技術的に更に多くの未解決な諸点があり、到達点がいまだ見えていない。

4.我が国の宇宙開発推進ビジョンの問題点とやるべき事

 以上の状況下で我が国の宇宙開発推進の実態を見ると、宇宙発電衛星構想はいまだその真価と現状の理解が薄いところから位置づけが低く、実現化が遅れているのは残念である。

 

 アポロ計画から35年が経過しても、未だ根本的な月の起源の解明が出来ていないとして、月探査の世界競争(表―1)が行われて、日本も呼応して「かぐや」を打ち上げた。

 確かに、宇宙開発の中で、月が持つ意義は大きい。到着に要する日数は火星には最低半年、月なら最短3日。通信の遅れも1.5秒と短いので将来の宇宙有人探査を実証する格好の練習場となる。もし氷の存在が確実となれば、生活用水やロケット燃料の現地調達の可能性も出てくる。また、存在していると目されている「ヘリウム3」(将来の核融合発電の次世代燃料)の資源開発も期待される。火星以遠の中継地としての可能性(NASAは2024年頃を目処に月面基地を検討中)がある。各国も月を目指しているのは事実である。

 我が国はこうした海外の動向を踏まえ、これまで宇宙科学の一環で進めてきた月惑星探査を独立分野として推進する方針を決定。然し、そのあとの日本の戦略的長期宇宙開発利用の構想はいまだ固まっていない。(日経11月14日)

 

 そこで、我が国のなすべき事は、先ず、このかけがいの地球の温暖化の解決並びに大型のクリーンエネルギー源の確保により足下を固めることではなかろうか。

 太陽発電衛星は、今や開発研究のレベルからすでに産業開発レベルの段階に移行し、我が国から世界に発信しうる貴重なテーマである。化石燃料に頼らず、温暖化ガスの発生も無い。希少資源であるウランも不要で放射性廃棄物も排出せず、産業の大型需要を喚起し大規模な経済波及効果があることは、筆者がすでに機会ある毎に本学会並びに本紙上で具体的に述べてきたところである。

 月や火星、そしてそれ以遠の探査の夢を追う前に、今、国として衆知を結集して取り組むべきことは、目前の急務の解決であり、これこそ我が国の戦略的・長期的宇宙開発のテーマの中核となるべきであることは言を待たない。

 そのためにやるべき事は沢山ある。技術開発も更に磨きをかけ、経済的にもコストダウンを図り更に一層実現に近づける必要があろう。と同時に、PRも怠らず、世の人々の正しい理解と支援を受ける体制づくりも不可欠である。産・学・政官が一体となった推進も必要である。宇宙平和利用のための関連立法措置も必要になるからである。

 

 すでに賽は投げられ、シーザーはルビコン川を渡ったのである。関係する人々は象牙の塔から出て、あらゆる機会に発言し、太陽発電衛星の早期実現こそがかけがいの地球を救い、現在のみならず次世代への何よりの貢献となるという理解を広げるように、一丸となって努力すべき秋であろう。

     

                                  完 

 

                               京都・八瀬にて

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