横八会員投稿 No.239

題名 書評:今井和也著「中学生の満州敗戦日記」
投稿 伊藤 博 (7組)
掲載 2008.04.01


書 評:  今井和也著「中学生の満州敗戦日記」      

      岩波ジュニヤ新書(2008年3月刊)

世に「満州国」について書かれた多くの書物が在る中で、この著作がひときわ説得力を
持つ理由は、著者が多感な少年時代を満州で過ごし、突然の「国家消滅」から母国に引き
上げる迄の420日間の生々しい実体験からにじみ出た言葉で、原色の記憶が色褪せて
いない事実を客観描写しているところにある。
行間に、今日の豊かで飽食の時代の戦争を知らない人々に悲惨な史実を正確に伝え、無惨な
失敗は繰り返させたくないという熱い思いが強く伝わる。

真実は目線が低い方が良く見えることが多々ある。視点は「中学生」だが、その内容は遙かに濃い。
文章は観念的・類型的な描写を避けて具体的に、親しみやすい能文である。

今を去る63年前、敗戦と同時に旧大日本帝国の創った幻想国家「満州国」は13年5ヶ月の
寿命を閉じて消滅し、在住155万人の日本人が守ってくれる国を突然に失い、無法地帯に
放り出された。
そこに177万のソ連軍が怒濤のごとく侵入して荒れ狂い、想像を絶する環境下で生き残った
体験記を太い縦糸に、横糸で当時の我が国から見た「満州国」の真の位置づけ、満蒙開拓団の
意図と実態、さらに密封された731部隊の闇にまで言及して織り込み、欧米列強と比較した
我が国の植民地政策の特徴を解明。

歴史の副読本としても高く評価され、一読に値するものとして推奨する一冊である。

著者は大学で私淑する学僚でもあり、東大の西洋史を主席で卒業した俊英で広告宣伝業界の泰斗。
業界史上に燦然と残る、人口に膾炙された幾多のフレーズの名コピーライターでもある刀筆の吏。

         
                               平成20年弥生

                                御室御所にて

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