横八会員投稿 No.338

題名 丸の内音楽祭から
投稿 伊藤 博 (7組)
掲載 2009.05.10

ウノ目タカの目

             丸の内音楽祭から

「好きこそものの上手なれ」と言うが、大半は「下手の横好き」で括られるのが世の
相場である。何事も一芸に秀でることは容易なことではない。
ましてプロの道に踏み込むとさらに厳しさを増す。

ところが、最近天が二物を与えたような例に遇うケースが増えたような気がする。

4月末から5月初にかけて東京・丸の内エリアで8ヶ所の会場を広範に使用した音楽祭
「ラ・フォル・オ・ジャポン」が開催された。本年の統一テーマは「バッハ」。
各会場で熱のこもったプロの演奏が多数の聴衆を魅了した。

偶々5月4日のOAZO広場にて、平野玲音の「無伴奏チェロ組曲大6番ニ長調」
(BWV.1012)の若いながらも見事な演奏を堪能したが、彼女の経歴を見て驚いた。
何と音大出ではない。

9才からチェロを始め、藤原真理他に師事。東京大学で美学芸術学を専攻。
同大学院表象文化論コース修士課程修了。‘02年よりウイーン留学。ウイーンフィルのG、
イーベラに師事そのたマスタークラスを受講。アレグロ・ヴィーボオ賞、アルティス賞、
ジーメンス・ウイーン古典派賞。 ’06年ロンドンと東京でデビュのリサイタルを開き
CDもレリースしている。

そう言えば、彼女の母(平野知種)もチェリストで、早稲田大学の理工学部を卒業の後に
桐朋学園大学音楽部で学んだ経歴を持つ珍しいプロである。

これに類似する例は、バイオリニストの千住真理子も慶應大学の文学部出身で音大出ではない。
幼少からその才能を発揮し、現在名器ストラト・バリウス(デュランティー)を貸与されて
活躍している。

プロの音楽家になるために音大で学ぶという従来のパターンから脱して、一時別の専攻で博く
思考と知見を深めた後に好きな音楽の道に戻って本格的に極めるやり方である。

彼らに共通なものは、作品の解釈が深く、優れた技術に溺れない説得力ある演奏の厚みであろうか。

音大からは毎年星の数ほど演奏家のタマゴが生まれるが、孵化してプロとなる道は険しい。
百歩譲って、中・高校の音楽教師の門も狭いと耳にしている。
その中にあって、彼らと互して世に抜きんでるには、半端な努力と才能では太刀打ち出来なかろう。

今回紹介した異色の経歴の音楽家は、才能もさることながら、努力を継続する精神力も余人に
ないものがあるのであろう。今後の一層の活躍が期待される。

             

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