横八会員投稿 No.77

投稿者 安藤 浩(6組)
題名   丑寅会ー遊記2
掲載日 2005.11.22


 ここのところ朝晩めっきり寒さを増して秋も深まって参りましたが、皆様お元気にお過ごしのことと思います。
 さて、秋も深まってまいりますと、何とはなしにメランコリーな気分になります。
 そんなことで今日は「なく」と題してお話をしようと思います。
 
 「なく」という漢字には「泣く」、「哭く」、「鳴く」、「啼く」等があります。
 
[1] 人が「なく」場合には「泣く」、「哭く」を用い、例えば
  
   「悲しみに泣く」
   「わずか一点に泣く」 (負けた)
   「看板が泣く」 (立派な名にふさわしくない状態)
   「無理を承知で泣かせる」 (値段を負けさす)
   「親友の死を知り、激しく哭いた」
   
   等の使い方をします。

[2] 「泣く」、「啼く」は鳥、獣、虫などが声をあげて「なく」場合に使います。
  
   昔から和歌や漢詩の中で、この「なく」という言葉は多く見かけて来た
ように思い、調べて見ますと
   「泣く」の漢字、意味に用いられているもの
は以外に少なく圧倒的に「鳴く」、「啼く」を使ったものが
   多いことが分か
ります。
   これは人が「泣く」という表現があまり直接的過ぎる為これをさけ
た為と、詠懐、追悼などの歌より
   自然を題材にした歌の方が多い為と
思われます。
   それでは、まず和歌の中でこの「なく」を探してみますと「万
葉集」の山上憶良の歌に
 
    O 妹(いも)が見しあふちの花は散りぬべし
                      ・ ・ 
                   我が泣く涙いまだ干(ひ)なくに
                                                                          
    という歌があります。又「枕草子」の「おぼつかなきもの」に
 
    O ものもまだ言わぬ稚児のそっくっがへり
                              ・ ・
                    人にも抱かれず泣ききたる
 
    があります。百人一首ではどうかと申しますと、百人一首の中には「なく」とある歌が四首あります。
                   ・ ・
    O 奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声きくときぞ秋は悲しき
            ・ ・
    O きりぎりすなくや霜夜のさむしろに衣かたしき独りかもねん
            ・ ・
    O ほととぎすなきつる方をながむればただ有明の月ぞ残れる
                   ・ ・
    O 淡路島かよう千鳥の鳴く声にいく夜ねざめぬすまの関守
    
    この四首とも「なく」はすべて「鳴く」で「啼く」を使おうとするニアンスはありません。
   
    それでは、そろそろ漢詩の世界に移りましょう。数多くある漢詩に於いても、「泣く」という漢字を
    用いた詩は少なく、むしろ人が「なく」場合には「哭く」という字を使って
います。
    又「泣く」、「哭く」の行為は
 
    「涙湿巾」 (涙巾をうるおす)巾はハンカチのこと。
         「泪湿襟」   (泪えりをうるおす)
    「涙落湿我衣」 (涙落ちて我が衣をうるおす)
    「涙垂」   (涙たる)
    「双涙垂」  (双涙たる)
    「涙如雨」  (涙雨の如し)
    
    等の言葉で表現しています。それでは漢詩の中で「なく」が入った詩を五言絶句、七言絶句、
    五言古詩、五言律詩等々皆様のよく知っている漢詩からご紹介し
ていきましょう。
    
    詩中の「なく」という漢字に注意しながら、声をだして是非詠んで
下さい。
 
    1、  春  暁     孟 浩 然 (五言絶句)
 
      春 眠 不 覚 暁  (春眠暁を覚えず)
              ・  ・
      処 処 聞 啼 鳥  (処処啼鳥を聞く)
 
      夜 来 風 雨 声  (夜来風雨の声)
 
      花 落 知 多 少  (花落こと知る多少)
 
   
    2、  楓 橋 夜 泊   張  継 (七言絶句)
            ・  ・
      月 落 烏 啼 霜 満 天 (月落ち烏啼いて霜天に満つ)
 
      江 楓 漁 火 対 愁 眠 (江楓漁火愁眠に対す)
 
      姑 蘇 城 外 寒 山 寺 (姑蘇城外の寒山寺)
 
      夜 半 鐘 声 到 客 船 (夜半の鐘声客船に到る)
 
 
    3、  江 南 春     杜 牧 (七言絶句)
              ・
      千 里 鶯 啼 緑 映 紅 (千里鶯啼いて緑紅に映ず)
  
      水 村 山 郭 酒 旗 風 (水村山郭酒旗の風)
 
      南 朝 四 百 八 十 寺 (南朝の四百八十寺)
 
      多 少 楼 台 煙 雨 中 (多少の楼台煙雨の中)
 
   
    4、  早 発 白 帝 城 (つとに白帝城を発つ) 李 白  (七言絶句)
 
      朝 辞 白 帝 彩 雲 間 (あしたに辞す白帝彩雲の間)
 
      千 里 広 陵 一 日 還 (千里広陵一日にして還る)
                 ・
      両 岸 猿 声 啼 不 住 (両岸の遠声啼いてやまざるに)
 
      軽 舟 已 過 万 重 山 (軽舟已に過ぐ万重の山)
 
 
    5、  帰 園 田 居 (園田の居に帰る)  陶 淵 明 
        五首の其の一、の五言古詩の中に
    
       狗 吠 深 巷 中 (犬は吠ゆ深巷の中)
          ・
       鶏 鳴 桑 樹 頂 (にわとりは鳴く桑樹のいただき)
 
 
     6、 桃 花 源 詩   陶 淵 明  
          
        五言古詩の中に
                ・
        鶏 犬 互 鳴 吠 (鶏犬互に鳴吠す)めいばい。
 
     7、 晩 次 楽 郷 縣    陳 子 昴  (五言律詩)
 
        故 郷 沓 無 際 (故郷ようとしてはてなし)
 
        日 暮 且 孤 征 (日暮れて且っ孤征)
 
        川 原 迷 旧 国 (せんげん旧国にまよい)
 
        道 路 入 辺 城 (道路辺城に入る)
 
        野 戎 荒 煙 断 (やじゅうこうえんたえ)
 
        深 山 古 木 平 (深山古木平かなり)
 
        如 何 此 時 恨 (いかんせん此の時を恨み)
                   ・
        激 激 夜 猿 鳴 (きょうきょうとして野猿鳴く) 
 
     
     8、 戦 城 南  (せんじょうなん)  (楽 府 古 辞)
         
        最初の八行目の句まで
 
        戦 城 南         (戦城南)
       
        死 郭 北         (かくほくに死す)
 
        野 死 不 葬 烏 可 食 (野に死して葬られず烏食らうべし)
        
        為 我 請 烏       (我が為に烏に言え)
                ・
        且 為 客 豪       (しばらくはかくの為になけ)
 
        野 死 諒 不 葬     (野に死してまことに葬られず)
  
        腐 肉 安 能 去 子 逃 (腐肉いずくんぞよく子を去りて逃れんや)
 
        − − − − − − −
        
      9、  兵 車 行 (へいしゃこう)  杜 甫
         
        五行目の句から
                        ・
        牽 衣 頓 足 遮 路 哭 (衣をひき足を頓して道をさえぎりて哭く)
       
        哭 声 直 上 干 雲 屑 (哭声直ちに上がりて雲屑を
おかす)
      
      10、  七 哀 詩    王  燦
          
         九行目から
 
         路 有 飢 婦 人 (路に飢える婦人あり)
 
         抱 子 棄 草 間 (子を抱きて草間に棄っ)
                 ・
         顧 聞 号 泣 声 (顧みて号泣の声聞くも)
 
         揮 涙 獨 不 還 (涙をふるって独り還らず)
 
          − − − − −
 
        王 籍 の詩の中にも
         
          蝉 騒 林 愈 閑 (蝉騒がしく林いよいよ閑なり)
           ・
          鳥 鳴 山 更 幽 (鳥鳴いて山更に幽なり)
 
                こうして漢詩を読んできますと、烏や鳥、猿は「啼く」、鶏や蟋蟀(こおろぎ)は「鳴く」と使う、
       と思っていると、突然「野猿鳴く」とか「鳥
鳴いて」等とでてきて、アレ と思うことがあります。
       この辺は作者の
感性により使い分ている部分で難しいところだと思います。
       
       猿は「啼く」かと思っていると、「猿しゅう」悲しくなくとあり、「唐代伝奇」
には「虎しゅうすれば風生じ、
       龍吟ずれば雲あつまる」で虎は吼える
のかと思うとしゅうするのであって、龍は吟じるようです。
       大分長くなつてしまつたのでこの辺で終わりとしましょう。
 
       さて、そこで問題です。
       
       [1] 次ぎの説明にぴたりとくる「泣く」の字を用いた言葉を書きなさい。
        
        例  泣いて相手の同情を買い願い聞いてもらう事。
        答え 泣き落とし。
          (一問10点、80点)
 
         1、自分の不運や不遇、または不能を嘆く言葉。ぐち。(       )
         2、酒を飲むと泣く癖のある人。(       )
         3、困っている上に更に困るつたことが加わる例へ。
         4、人や物事の弱点、弱み。(       )
         5、ちょつとしたことでもすぐに泣く事、またそうゆう人。(       )
         6、嘆き悲しみながらの別離。(      )
         7、どんな方法を尽くしても、どうあがいても、あとわずか。(         )
         8、何の活躍もしないでいることを自嘲的に、又は軽蔑していう。(      )
         
        [2] 次ぎの言葉を漢字に直しなさい。(一問5点、20点)
          1、ごうきゅう。2、どうこく。 3、きょうめい。 4、めいどう。
 
         答え [1]
              1,泣き事。 2、泣き上戸。 3、泣き面に蜂が刺す。4、泣きどころ。
              5、泣き虫。 6、泣き別れ。 7、泣いてもわらつても。8、泣かず飛ばず。
             [2]
               1,号泣。  2、慟哭。  3、共鳴。  4、鳴動。
 
               90点以上A、80点以上B、 70点以上C,
               60点以下は落第です。
           
           それでは、お疲れ様でした、又さーなら。     
                                        安藤 拝。
 
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